2018/09/11

悪魔系科学者のある1日の奇跡

注 1冊目のブログでも毎年やっていたDE誕生日企画のショートストーリーです。苦手な人はUターン。



「エドワード…今はあなたがいるだけで十分よ」


…これはかつてのオレの記憶の1つ。


オレはナソード研究をしている一族の元に生まれた。
父の英才教育の日々に疲れたりもしたが母といるときはそんなことも忘れるくらいあたたかくて…そんな日々が続けば…そんなことも思っていた。
しかしある日オレは知ってしまう。
父はオレのことを息子とは思っていなかったこと、オレを兵器にしようとしていたこと。

…結局両親は死んだ。
オレの住んでいた村はある日何もかもが壊されオレは幼くしてすべてを失ってしまった。
オレを奴隷にしようとする連中から逃げ出したはいいものの途中で崖から落ちてしまう。
オレはそこで出会った猫耳のついたナソードによって300年の時をこえてそこから過去へ戻り復讐を果たすという目的で研究を続けてきた。

月日は流れ、オレは時間移動の術を習得した。
しかし時間移動の影響は体に負担を与えその毒素によってオレの目は黒く変色していった。
それでもオレはやめることはなかった。全ては過去に戻るため…そう思っていた。そう信じていたんだ。

だが現実はチョコレートのようには甘くなかった。
オレがたどり着いた世界は全く違うものとなっていた。
そしてオレは思い知らされるとこになる。目当ての過去に戻るのは天文学的な確率であるということ。

そしてオレの過去移動論は破綻しているということ。

それに気づいたオレはこんなくだらない世界は壊してしまおう…そう考えた。
そうして破壊行動を繰り返すオレをいつしか周りは悪魔の超能力者…ディアボリックエスパーと呼ぶようになった。







…さて、長い前置きはここまでにしておこう。

「…母さん。」
そう呟いてオレは寝間着からいつもの服へと着替える。
そして身支度を整え朝食に至る。
しかし今日は肌寒いな…少し前までは酷暑だったというのになんなんだ。
温かいココアでも淹れるか。
オレは食パンを1枚焼いて食べながらテレビを眺める。
テレビではいつもどおりのニュースが流れ続けている。正直そんなものには興味ねぇがバックサウンド代わりにはなるだろ。

朝食を終え今日は何を壊そうか…
「…ド」
「なんだ…?…気のせいか。」
何かが聞こえた気がしたがまあ多分鳥が鳴いてるんだろ。どうせそいつらもオレに壊されてしまうがな…
さてと。そろそろ…
「エドワード…」
…何なんだこれは。
幻聴か?
時間移動の回数も重なってるし確かに体に異変を感じることもあるがついに幻聴まで聞こえてくるとはな…

オレは知っている。
時間移動の副作用を。
本来時は未来への一本道でしかない。
これはそんな道を逆流したり別の時間軸へと行くもの。そうなれば当然負荷がかかってくる。
今はまだこの程度であるがいずれこの行動を繰り返せば…オレの体は消えてしまうだろう。
まあ…そうなったとしてもオレには最終手段があるんだがな。
禁断の実験ではあるが目的のためならそれすら行使してやる。



〜数時間後〜

「さて…まあ今日はこのくらいにしておいてやるか。」
満足するまで多くのものを壊し住処へ戻る…オレの1日はだいたいこの繰り返しだ。
ただ…今日は違っていた。
オレはいつも通り住処へと帰った。
ただ…何かがおかしい。
オレはここに1人で暮らしているはずなんだが…なぜ目の前に女性が立っているんだ…?
「おかえりなさい、エドワード。」

…幻聴に加えて幻覚まで見えてきたのか?
そろそろオレの体も限界ということか…
普通に考えたらこんなことありえるわけがないんだ。
なぜなら目の前にいる女性は…オレの母さんにそっくりなんだからな…!!
母さんは死んだ…ま、まさか幽霊…?
いや…幽霊なんてもんいるわけがないだろ…いくら母さんだったとしても幽霊なんて…
「エドワード?どうしたの?」
…これは一体なんなんだ。
もしかしたら誰かが仕掛けた悪質な悪ふざけなのではないか?
そんなことを考えているとふと頭に温もりが伝わってきた。
目の前にいる母さんにそっくりな女性がオレの頭を撫でていたのだ。

「オマエは…誰なんだよ。」
「エドワードったらお母さんのこと忘れちゃったの?
グレイスよ。グレイス・グレノア。あなたのお母さんよ。」
「嘘だ!!だって母さんは…母さんは…!!」
「…そうね。でもねあなたに会いに来たの。今日は大切な日だから。」
大切な日…?
オレの誕生日だとしたらまだまだ先だ。
今は9月。1月まではかなり日にちがある。
だとすると大切な日ってなんだ…?

「あなたのこと天国から見守っていたのよ。そうね…何年か前の今日。あなたがディアボリックエスパーと周りから呼ばれるようになった日。言うならディアボリックエスパーとしてのエドワードの誕生日…かしら。」

「そんなめでたい日なんかじゃねぇよ…」
「でもね祝ってあげたかったの。あなたは私の大切な息子なんだから。新たな門出の記念日におめでとう。エドワード。」

「母さん…」

ふと見上げると彼女の体が徐々に薄れていた。
「もう時間みたいね。エドワード…元気でね。あなたに会えてよかったわ…」

そういうと母さんは消えていった…オレの都合のいい妄想か奇跡なのかはわからない。ただオレの心は少し満たされたような気がした。

…母さん。いつかまた…過去に戻って幸せな世界にしてやるんだ…

とりあえず今日はケーキでも買って食べるか。
そう思いながらオレは再び外へ出る。
少しだけ気持ちのいい空だ。